「朝、起きられない」のは、あなたのせいじゃない。起立性調節障害のつらさと、心を守るヒント

「『朝、起きられない』そのつらさ、あなたのせいじゃない」というメッセージを伝えるアイキャッチ画像。右下で語り手の男性が優しく解説し、左下には「時間に縛られず休んでいい」ことを象徴する、針のない時計に葉が寄り添うイラストが描かれている。「怠け」だと自分を責めてしまう人の心に寄り添うデザイン。
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Aさん
Aさん
うちの子、毎朝ぐったりしてて全然起きられないの…。無理やり起こしてもフラフラで。学校に行けなくて本当に心配。これって、ただの怠けなんでしょうか…?

保護者の方だけでなく、ご自身の症状に「もしかして…」と不安を感じている方もいるかもしれません。

Bくん
Bくん
自分も朝起きるのが本当につらい。気合いで起きようとしても、頭痛や吐き気がひどくて体が動かない…。周りからは「夜更かししてるからだろ」って言われるけど、違うんだ。もしかして、何か病気なのかな…。
ななころ
ななころ
そのつらさ、とてもよくわかります。お子さんのことで悩むお気持ちも、ご自身の症状に不安を感じるお気持ちも、痛いほど伝わってきます。それは決して「怠け」や「気合いの問題」ではありません。もしかしたら、「起立性調節障害(きりつせいちょうせつしょうがい)」という病気が関係しているかもしれません。

この記事でお伝えしたいこと

この記事では、かつて昼夜逆転に苦しみ、社会人になってから「概日リズム睡眠障害」と診断された私の体験も交えながら、

  • 起立性調節障害ってどんな病気?
  • うつ病との違いや関係は?
  • 周りに理解されないつらさとどう向き合うか
  • 当事者と家族が、今日からできること

について、一緒に考えていきたいと思います。

もう一人で悩ないでください。この記事が、あなたの心を守るヒントになれば嬉しいです。

起立性調節障害(OD)とは?「なまけ病」ではない、体の病気です

「朝起きられない」
「午前中はぐったりして、午後になると少し元気が出てくる」
「立ち上がるとめまいや動悸がする」

もし、あなたやお子さんにこんな症状があるなら、それは「起立性調節障害(Orthostatic Dysregulation: OD)」かもしれません。

起立性調節障害(OD)とは
自律神経系の異常で、主に循環器系の調節がうまくいかなくなる疾患です。立ち上がった時に血圧が回復しなかったり、心拍数が上がりすぎたり、調節に時間がかかりすぎたりします。その結果、脳や身体への血流が低下し、様々な症状があらわれます。

(出典:日本小児心身医学会

簡単に言うと、立ち上がった時に自律神経がうまく働かず、脳や体への血流が一時的に低下してしまう病気です。
その結果、朝起き上がれなかったり、めまい、頭痛、吐き気、倦怠感といった様々な症状が現れます。

本人の意思とは関係なく、体がうまく機能しない状態であり、決して「なまけ」や「根性がない」からではありません。

私の体験談:「怠け」のレッテルと、診断されない苦しみ

実は、私自身も子どもの頃からひどい「朝起きられない」症状に悩まされてきました。
今思えば、これも起立性調節障害の症状とよく似ていたなと感じます。
幼稚園のお昼寝時間は一度も眠れず、小学校の夏休みは昼夜逆転。高校生になる頃にはそれが当たり前になり、不登校気味になりました。
当時つらかったのは、周囲の目です。
直接「怠け者」と言われたわけではありませんが、「なんで学校来てないのに、テストで赤点取らないの?」と不思議がられている空気を感じていました。家で一人、必死に勉強して遅れを取り戻していたのですが、その背景までは伝わりません。
私が学生だった約30年前は、起立性調節障害という病名自体は存在していましたが、一般にはほとんど知られていませんでした。そのため、病院で相談するという発想もなく、診断されることはありませんでした。

社会人になりうつ病を発症してからようやく専門医にかかり、私は「概日リズム睡眠障害」(※)という診断を受けました。
※体内時計のリズムがずれて、社会的に望ましい時間帯に睡眠・覚醒することが難しくなる睡眠障害の一種です。

この体験から、私は「周囲に理解されないつらさ」と「適切な診断の重要性」を痛感しました。この記事では、その両方の視点から解説していきます。

【重要】起立性調節障害とうつ病の関係性

起立性調節障害の症状は、うつ病の症状と似ている部分があります。

  • 朝起きられない
  • 体がだるい、疲れやすい
  • 集中力・思考力が低下する
  • 食欲がない

そのため、両者は間違われやすく、時には併発することもあります。

起立性調節障害とうつ病の主な違い(一般的な傾向)

  • 症状の時間帯:起立性調節障害は「午前中に症状が重く、午後に回復する」傾向が強いと言われています。一方、うつ病は一日中気分の落ち込みが続くことが多いです。
  • 気分の状態:起立性調節障害の子どもは、学校には行けなくても、好きなこと(ゲームや趣味など)は楽しめる場合があります。しかし、うつ病の場合は、これまで楽しめていたことにも興味を失ってしまう傾向が見られます。
自己判断はせず、必ず専門医に相談を
ただし、これらはあくまで一般的な傾向です。
起立性調節障害が長引くことで学校や仕事に行けなくなり、自己肯定感が下がって二次的にうつ病を発症してしまうケースも少なくありません。
「どちらか一方だ」と自己判断せず、もし気分の落ち込みなど気になる症状があれば、必ず専門医に相談してください。

また、もし立ちくらみなどの身体症状はなく、ただ「鉛のような体の重さ」や「強い絶望感」で起き上がれない場合は、うつ病特有の「日内変動」が原因かもしれません。

当事者が一番つらいのは「周りに理解されないこと」

病気の症状そのものもつらいですが、起立性調節障害の当事者が本当に苦しむのは、周囲からの無理解からくる「孤独感」や「罪悪感」なのかもしれません。

Cさん
Cさん
「気合いが足りない」「夜更かししてるからだ」って言われるのが本当につらい…。午後から元気になると、「やっぱりサボってただけじゃん」って思われてる気がして…。

私たちにできること|当事者と家族のヒント

では、このつらい症状とどう向き合っていけばいいのでしょうか。
専門学会の情報を参考に、「当事者本人にできること」と「家族ができること」に分けてまとめました。

当事者本人にできること|自分を責めずに試せる工夫

まずは、自分自身をこれ以上責めないことが大切です。その上で、少しでも症状を和らげるために、生活の中で試せるとされている工夫をいくつか紹介します。

日常生活で推奨される工夫

  1. 水分と塩分を多めに摂る:脱水を防ぎ、循環する血液量を増やすため、水分は1日に1.5〜2L、塩分は多めに摂取することが推奨されています。
  2. 起き上がり方・立ち上がり方を工夫する:急に立ち上がると脳血流が低下しやすくなります。朝は頭を少し高くして寝て、起きる際は数分間座ってからゆっくり立ち上がるなどの工夫が有効です。
  3. 適度な運動:症状を悪化させない範囲での散歩(1日15〜30分程度)や、下半身の筋力トレーニングが血流改善に役立つとされています。
  4. 体を締め付ける衣類等の活用:弾性ストッキングなどを着用し、下半身に血液がたまるのを防ぐ方法もあります。

(参考:日本小児心身医学会

※上記は一般的な情報提供であり、効果を保証するものではありません。塩分摂取量などは個人の健康状態によって調整が必要なため、実践する際は必ず医師の指導のもとで行ってください。

家族(親)ができること|一番の薬は「理解」です

お子さんの症状に悩むご家族の方へ。
私が自分の経験を通して、そして多くの当事者の声を聞いてきて、一番大切だと感じることをお伝えします。

ななころ
ななころ
まず、何よりもお子さんを信じて、理解してあげてください。
「学校に行きたくない」のではなく、「行きたくても、行けない」のです。
その苦しみを一番近くで理解し、「あなたのせいじゃないよ」と伝え続けてあげることが、何よりの薬になります。

その上で、具体的なサポートとして以下のことを心がけてみてください。

  • 無理に起こさない:焦る気持ちはわかりますが、無理やり起こすことは症状を悪化させるだけでなく、本人のプレッシャーにもなります。
  • 学校と連携する:診断書などを基に、病気について学校側の理解を求めましょう。別室登校や、午後からの登校など、無理のない形を相談することが大切です。
  • 本人の気持ちに寄り添う言葉を選ぶ:「頑張れ」「早く寝ないからだ」といった言葉は、本人を追いつめます。励ましのつもりが、深い罪悪感を植え付けてしまう可能性があることを理解し、まずは本人のつらさを受け止める言葉をかけてあげてください。

まずは専門医へ相談を|何科に行けばいい?

「もしかして…」と思ったら、自己判断で抱え込まず、まずは専門の医療機関を受診することが回復への一番の近道です。

何科を受診すればいい?

  • 子ども(中学生以下)の場合:まずはかかりつけの「小児科」に相談しましょう。起立性調節障害の専門外来がある病院を紹介してもらえることもあります。
  • 高校生以上・大人の場合:「内科」「循環器内科」「神経内科」、あるいは気分の落ち込みなど精神的な症状もあれば「心療内科」が選択肢になります。

病院では、血圧測定などの検査を通じて、症状の裏に他の病気が隠れていないかもしっかりと調べてくれます。
私の経験からも、専門家に相談することで「自分のせいじゃなかったんだ」と分かり、心が軽くなるという側面も非常に大きいです。

まとめ:「一人じゃない」と思えることが、回復の光になる

この記事では、起立性調節障害の基本的な知識から、うつ病との関係、そして当事者と家族ができることについて、私の体験を交えながらお話ししました。

この記事のポイント

  • 起立性調節障害は、自律神経の不調による体の病気。決して「怠け」ではない
  • 症状がうつ病と似ているため、自己判断はせず専門医に相談することが重要
  • 当事者が一番苦しんでいるのは、症状そのものより周囲に理解されない孤独感
  • 家族の一番のサポートは、本人のつらさを信じて、理解してあげること

朝、目が覚めても体が動かない絶望感
行かなければいけない場所に行けない罪悪感
そして、誰にもこのつらさをわかってもらえない孤独感

もしあなたが今、そんな暗闇の中にいるのなら、どうか思い出してください。
あなた一人ではありません。
同じように苦しみ、そして少しずつ光を見つけて歩いている仲間が、ここにいます。

この記事が、その暗闇を照らす小さな光となることを、心から願っています。

参考文献

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