薬への不安
お医者さんから出された、ちいさな薬。
テーブルのすみっこで、私をじっと見ている。
「本当に、効くのかな」
「副作用は、こわくないかな」
「一度のんだら、やめられなくならないかな」
たくさんの不安が、さざ波みたいに押しよせる。

傘という比喩
でも、先生は言っていた。
「焦らなくていいですよ。これは、心の嵐からあなたを守るための『傘』だと思ってください」
震える手で、はじめの一粒を、そっと飲みこんだ。

停滞感
一日、また一日と、薬を飲みつづける。
でも、心はまだ、重たいまま。
「本当に、これでいいのかな…」
窓の外の景色みたいに、
気持ちもずっと、雨もよう。

小さな変化
それから、何週間かが過ぎた朝。
ほんの少しだけ、ほんの少しだけ、
心が軽いことに気がついた。
夜、とぎれとぎれだった眠りが、
きのうは少しだけ深かったかもしれない。
それは、劇的な回復なんかじゃない。
でも、たしかな「ちいさな変化」だった。

薬の役割
薬は、雨を止ませる魔法じゃなかった。
でも、土砂降りの雨のなかで、
心がずぶ濡れにならないように守ってくれる、
やさしい「傘」なんだ。
今は、この傘をたよりに、ゆっくり歩いていこう。
そう、思えるようになった。
VOICEVOX:小夜/SAYO




VOICEVOX:小夜/SAYO / Music: Til Death Parts Us
あとがき:この物語に込めた想い
最後まで物語に寄り添っていただき、ありがとうございます。作者のななころです。
「うつ病の薬」と聞くと、とても怖いイメージがありますよね。「一度飲んだら一生やめられないのではないか」「自分が自分ではなくなってしまうのではないか」。私自身も初めて抗うつ薬を処方された日、小さな錠剤を前にしてどうしても飲む勇気が出ず、テーブルの隅に置いたまま何時間も葛藤しました。
さらに辛かったのは、勇気を出して飲み始めても「すぐに元気になるわけではない」という現実でした。副作用の吐き気や眠気と戦いながら、「本当に効いているのだろうか」と不安になる日々が何週間も続きました。
それでも、主治医の言葉を信じて飲み続けるうちに、ある日ふと「あ、今日は少しだけ息がしやすいかもしれない」と感じる瞬間が訪れました。薬は、土砂降りの雨を一瞬で晴れにする「魔法の杖」ではありませんでした。しかし、冷たい雨から心を守り、回復するための体力を少しずつ温存させてくれる、確かな「傘」のような存在なのだと、身をもって知ることができました。
もしあなたが今、薬への不安で押しつぶされそうになっているのなら。この物語が、あなたの不安を少しでも和らげる「傘」になればと願っています。





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