薬への不安
お医者さんから出された、ちいさな薬。
テーブルのすみっこで、私をじっと見ている。
「本当に、効くのかな」
「副作用は、こわくないかな」
「一度のんだら、やめられなくならないかな」
たくさんの不安が、さざ波みたいに押しよせる。

傘という比喩
でも、先生は言っていた。
「焦らなくていいですよ。これは、心の嵐からあなたを守るための『傘』だと思ってください」
震える手で、はじめの一粒を、そっと飲みこんだ。

停滞感
一日、また一日と、薬を飲みつづける。
でも、心はまだ、重たいまま。
「本当に、これでいいのかな…」
窓の外の景色みたいに、
気持ちもずっと、雨もよう。

小さな変化
それから、何週間かが過ぎた朝。
ほんの少しだけ、ほんの少しだけ、
心が軽いことに気がついた。
夜、とぎれとぎれだった眠りが、
きのうは少しだけ深かったかもしれない。
それは、劇的な回復なんかじゃない。
でも、たしかな「ちいさな変化」だった。

薬の役割
薬は、雨を止ませる魔法じゃなかった。
でも、土砂降りの雨のなかで、
心がずぶ濡れにならないように守ってくれる、
やさしい「傘」なんだ。
今は、この傘をたよりに、ゆっくり歩いていこう。
そう、思えるようになった。
VOICEVOX:小夜/SAYO




VOICEVOX:小夜/SAYO / Music: Til Death Parts Us





お気軽に感想をどうぞ