「なぜかいつも悪い方へ考えてしまう…」
「些細なことで自分を責めてしまう…」
もしあなたがそんな生きづらさを感じているなら、それは「認知の歪み」という思考のクセが関係しているかもしれません。
うつ病の背景にあるとも言われるこの考え方の特徴を、うつ病を19年経験した私が、豊富な具体例と共にやさしく解説します。
自分の思考パターンを理解し、心を軽くするヒントがきっと見つかります。
そもそも「認知の歪み」とは?

簡単に言うと、これは物事の受け取り方や考え方の「クセ」のようなものです。
私たちは誰でも、自分なりのフィルター(色眼鏡)を通して世界を見ています。
そのフィルターが極端に偏ってしまうと、出来事を必要以上にネガティブに捉えてしまい、心が疲れやすくなるのです。
この「認知の歪み」という考え方は、認知療法の創始者である精神科医アーロン・T・ベック博士によって提唱され、その弟子であるデビッド・D・バーンズ博士が著書『いやな気分よ、さようなら』で10のパターンに分類したことで広く知られるようになりました。
うつ病の直接的な原因ではありませんが、こうした思考のクセが、症状を悪化させたり、回復を遅らせたりする一因になることがあると言われています。
まずは、自分にどんなクセがあるのか、客観的に知ることから始めてみましょう。
【セルフチェック】あなたの「心のクセ」はどのタイプ?10の思考パターン
- □ 完璧じゃないと意味がないと感じる(全か無か思考)
- □ 一度の失敗を「いつもこうだ」と思ってしまう(一般化のしすぎ)
- □ 良かったことより、悪かったことばかりが気になる(心のフィルター)
- □ 良い出来事も「どうせまぐれだ」と割り引いてしまう(マイナス化思考)
- □ 根拠もないのに、最悪の結論に飛びついてしまう(結論の飛躍)
- □ 自分の失敗は重大事、他人の成功は些細なことだと感じる(拡大解釈と過小評価)
- □ 「そう感じるから、それは事実に違いない」と思い込む(感情的決めつけ)
- □ 自分や他人に「~すべき」と厳しく要求してしまう(すべき思考)
- □ 一つのミスで「自分はダメな人間だ」と決めつけてしまう(レッテル貼り)
- □ 何か悪いことが起きると「自分のせいだ」と責めてしまう(個人化)


大切なのは、自分のクセに「気づく」ことです。私もたくさんありましたから。
【具体例でわかる】認知の歪み10パターン
それでは、各パターンを日常でよくある具体例と共に見ていきましょう。
「こんな考え方をしたら楽になるかも」というヒントも添えました。
1. 全か無か思考(白黒思考)
物事を「100点か0点か」「完璧か失敗か」のどちらかで判断してしまうクセです。
【日常での具体例】
- ダイエット中にお菓子を一つ食べてしまい、「もう全部失敗だ」とやけ食いしてしまう。
- テストで95点だったのに、「満点でなければ意味がない」とひどく落ち込む。
【思考をやわらげるヒント】
「完璧じゃなくても、ここまでできた」とプロセスを評価してみましょう。0点と100点の間にある「グレーゾーン」を認める練習です。
2. 一般化のしすぎ
たった一度や二度の良くない出来事を根拠に、「いつもこうだ」「今後も絶対にこうなる」と結論づけてしまうクセです。
【日常での具体例】
- 一度プレゼンで失敗したら、「自分はプレゼンが下手だ。次も必ず失敗する」と思い込む。
- 恋人に一度フラれただけで、「私は誰からも愛されない人間なんだ」と感じる。
【思考をやわらげるヒント】
「本当に『いつも』そうだろうか?」と自問してみましょう。例外を探してみると、「案外そうでもないな」と気づけることがあります。
3. 心のフィルター
良いことには目を向けず、悪い部分ばかりに注目してしまうクセです。まるで、サングラスをかけて世界を見ているような状態です。
【日常での具体例】
- 上司から「資料のグラフは見やすいね。ただ、一箇所誤字があったから直しといて」と言われた時、「誤字があった」という指摘だけが頭に残り、褒められたことを忘れてしまう。
【思考をやわらげるヒント】
一つの出来事に対して、良かった点と悪かった点の両方を書き出してみるのがおすすめです。全体をバランスよく見る練習になります。
4. マイナス化思考
せっかくの良い出来事も「これは偶然だ」「まぐれだ」と過小評価し、ポジティブな経験として受け取れないクセです。
【日常での具体例】
- 仕事で褒められても、「今回は運が良かっただけ。本当の実力じゃない」と素直に喜べない。
- 人から親切にされても、「何か裏があるに違いない」と疑ってしまう。
【思考をやわらげるヒント】
褒められたり、うまくいったりしたら、まずは「ありがとう」と受け止めてみましょう。ポジティブな出来事をそのまま受け入れる練習が大切です。
5. 結論の飛躍
十分な根拠がないのに、ネガティブな結論に一気にジャンプしてしまうクセです。これには2つのパターンがあります。
【日常での具体例】
- (心の読みすぎ)LINEの返信が遅いだけで、「きっと嫌われたんだ」と思い込む。
- (先読みの誤り)会議で少し意見が対立しただけで、「もうこのプロジェクトは失敗するに違いない」と悲観する。
【思考をやわらげるヒント】
「そう考える根拠はなんだろう?」「他の可能性はないかな?」と一度立ち止まって考えてみましょう。
6. 拡大解釈と過小評価
自分の失敗や欠点は大げさに捉え、逆に自分の成功や長所は「たいしたことない」と小さく見てしまうクセです。
【日常での具体例】
- 仕事で小さなミスをしたことを、「取り返しのつかない大失敗だ」と何日も悩み続ける。
- 資格試験に合格しても、「こんなの誰でも取れる資格だ」と自分を評価しない。
【思考をやわらげるヒント】
友人や信頼できる人に、その出来事を客観的に評価してもらうのも一つの手です。物事を「ありのままのサイズ」で見ることを意識しましょう。
7. 感情的決めつけ
「自分がこう感じるのだから、それが事実に違いない」と、感情を根拠に物事を判断してしまうクセです。
【日常での具体例】
- 朝から不安な気持ちが強いので、「今日はきっと何か悪いことが起こる」と決めつける。
- 自分が相手を苦手だと感じていると、「相手も私のことを嫌っているはずだ」と思い込む。
【思考をやわらげるヒント】
「今感じていること」と「実際に起きていること」を分けて考える練習をしてみましょう。感情は天気のように移り変わるものです。
8. すべき思考
自分や他人に対して「~すべきだ」「~しなければならない」と厳しくルールを課してしまうクセです。
【日常での具体例】
- 「母親なのだから、常に笑顔でいるべきだ」と自分を追い詰める。
- 「友達なら、すぐに返信をくれるべきだ」と相手に期待し、そうでないと腹を立てる。
【思考をやわ-らげるヒント】
「~すべき」を「~だと嬉しいな」「~が理想だけど、できなくても仕方ない」という柔軟な言葉に置き換えてみましょう。
9. レッテル貼り
一度の失敗や一部分だけを見て、「私はダメな人間だ」「彼は無能だ」と、自分や他人に否定的なラベルを貼ってしまうクセです。
【日常での具体例】
- 料理を一度焦がしただけで、「私は本当に料理が下手なダメ主婦だ」と決めつける。
- 意見が合わない人に対して、「あの人は思いやりのない冷たい人だ」と人格まで否定する。
【思考をやわらげるヒント】
「私はダメだ」ではなく、「今回はこの部分がうまくいかなかった」というように、人格ではなく「行動」に焦点を当てて振り返ってみましょう。
10. 個人化(自分自身のせいにする)
自分に関係のない悪い出来事まで、「自分のせいだ」と責任を感じてしまうクセです。
【日常での具体例】
- 子どもが学校でケガをした時、「私が朝、注意しなかったからだ」と自分を責める。
- 自分が参加した会議が盛り上がらないと、「私の発言がつまらなかったせいだ」と思い悩む。
【思考をやわらげるヒント】
「この問題の原因は、100%自分にあるだろうか?」と考えてみましょう。自分以外の要因(相手の状況、環境など)を探してみると、責任を分散できます。
なぜ「認知の歪み」は生まれるの?原因とされる3つの背景
こうした認知の歪みは、決してあなただけが特別なのではありません。
生まれる背景には、主に3つの要因があると言われています。
1. 過去の経験
子どもの頃の成功体験や失敗体験、親や先生からかけられた言葉などが、無意識のうちに思考のパターンの土台を作ることがあります。
2. 周囲の環境
家庭や学校、職場など、あなたが多くの時間を過ごす環境の価値観に影響を受け、特定の考え方が強化されることもあります。
3. 心身のコンディション
疲れていたり、ストレスが溜まっていたりすると、視野が狭くなり、普段よりネガティブな思考に陥りやすくなります。
「自分だけがおかしいわけじゃないんだ」と知ることは、心を軽くするための大切な一歩です。
何を隠そう、うつ病になる前の私も、これらの思考のクセにかなり縛られていました。
先ほどのセルフチェックを過去の自分に当てはめてみると、10個中5個も該当していました。
特に強かったのが「全か無か思考」と「すべき思考」です。
子どもの頃から「テストは100点をとるべき」「いつもいい子でいなければならない」と無意識に自分を追い込み、90点でも失敗だと本気で落ち込んでいました。
大人になってからもそのクセは抜けず、少しでもミスをすると「自分はダメな人間だ」とレッテルを貼り、自分を責め続ける毎日。
今思えば、心が疲弊してうつ病になったのも無理はなかったなと感じます。
それでも、自分の思考のクセに一つずつ気づき、受け止め方を変えていくことで、心は少しずつ軽くなっていきました。
あなたも、もし同じように苦しんでいるなら、決して一人で抱え込まないでくださいね。
認知の歪みをやわらげる3つのステップ【今日からできるセルフケア】
自分の心のクセに気づいたら、次はそのクセと上手に付き合っていく方法を学びましょう。
ここでは、一人でも始められる3つのステップを紹介します。
- ステップ1気づく(思考の記録)心がザワっとしたり、落ち込んだりした時に、「いつ・どこで・どんな出来事があって・どう感じたか」を簡単にメモしてみましょう。自分の思考パターンが見えやすくなります。
- ステップ2別の考え方を探すステップ1で記録したネガティブな考えに対して、「本当にそうだろうか?」「他の見方はできないかな?」「もし親友が同じことで悩んでいたら、なんて声をかけるかな?」と問いかけてみましょう。
- ステップ3専門家と取り組むセルフケアでうまくいかない時や、もっと本格的に取り組みたい時は、専門家の力を借りましょう。「認知行動療法(CBT)」は、うつ病の治療法としても確立されています。
まとめ:自分のクセを知ることが、自分にやさしくなる第一歩
今回は、心を疲れさせてしまう「認知の歪み」10パターンについて解説しました。
大切なのは、こうした「認知の歪み」を「悪いもの」だと決めつけないことです。
完璧を目指そうとする気持ちが、あなたの成長を支えてきたのかもしれません。
周りのことを考えすぎてしまうクセが、あなたの優しさの源泉だったのかもしれません。
認知の歪みを知ることは、自分を責めるためではなく、これまであなたを守ってきた思考のクセを理解し、その付き合い方を少し変えて、もっと楽に生きるためのツールです。
この記事が、あなたが自分自身を理解し、少しでも自分にやさしくなれるきっかけになれば、これほど嬉しいことはありません。



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