「昨日まで調子が良かったのに、今日はベッドから起き上がることもできない……」
「少し良くなったと思ったら、また急に落ちてしまう。もう、いつまで続くんだろう……」
症状が良くなったり悪くなったりを繰り返す「波」は、本当につらいですよね。
先が見えない不安に、心が折れそうになることもあると思います。
でも、どうか安心してください。
その波は、うつ病の回復過程ではごく自然なこと。決してあなただけがおかしいわけでも、努力が足りないわけでもありません。
実は、その波こそが、あなたの心が回復に向かって一生懸命にもがいている「大切なサイン」なのです。
この記事では、19年にわたりうつ病の波と付き合ってきた私の経験から、
- なぜ、症状に「波」が起こるのか
- 「悪い波」が来たときの心の守り方
- 「良い波」を次につなげる過ごし方
を、具体的にお伝えしていきます。
もう、得体の知れない波に振り回されるのは終わりにしましょう。この記事を読み終える頃には、波を乗りこなすためのヒントがきっと見つかるはずです。
なぜ?うつ病の症状に「波」が起こる3つの理由
理由(1):心と体のエネルギーが枯渇しているから
うつ病のときの心と体は、まるで「充電がうまくできないスマホ」のような状態です。
調子が良い日に少し頑張りすぎると、すぐにエネルギー切れを起こしてしまいます。
これは、頑張りすぎたあなたのせいではありません。
回復途中のエネルギー量と、あなたの「やりたい気持ち」にギャップがあるだけなのです。
理由(2):ストレスや環境の変化に反応しているから
心は、目に見えない変化にとても敏感です。
心の負担になること
- 上司からの一言に傷ついた
- 友人との約束がプレッシャーになった
体が反応すること
- 雨の日が続いて気分が落ち込んだ
- 季節の変わり目で自律神経が乱れる
- 冬になり、日照時間が短くなった
こうした小さな変化が重なると、波が大きくなりやすくなります。
理由(3):捉え方を変えるヒント:「波がある=悪化」ではない
一番お伝えしたいのは、「波があること」と「病気が悪化すること」はイコールではないということです。
むしろ、症状に波が出てくるのは、心が回復しようと働き始めた証拠でもあります。
この点について、国立精神・神経医療研究センターが運営する「こころの情報サイト」でも、次のように説明されています。
うつ病の症状は、よくなったり悪くなったりを繰り返しながら、少しずつ回復していくのが一般的です。
平坦だった感情が少しずつ動き出すからこそ、良い日も悪い日も生まれるのです。
「悪い波」が来たときの、心をすり減らさない3つのステップ
悪い波が来ると、焦って「なんとかしなきゃ」と思いがちですが、逆効果です。
大切なのは、波に抵抗せず、うまく受け流すこと。そのための3つのステップをご紹介します。
とはいえ、「休むこと」自体に罪悪感や焦りを感じてしまうこともありますよね。
そんなときは、こちらの記事も参考にしてみてください。
ステップ(1):波の存在を「実況中継」して客観視する
「あ、今、悪い波が来ているな」
「思考がぐるぐるしているな。これは症状のせいだ」
このように、自分の状態を心の中で実況中継してみてください。
ポイントは、感情に飲み込まれず、一歩引いた場所から自分を眺めることです。
「またダメだ…」と自分を責めるのではなく、「症状が出ているだけ」と事実として捉えることで、余計な自己否定から心をガードできます。
もし、波が来たときに「どうせ自分はダメだ」と考えがちなら、その背景にある「考え方のクセ(認知の歪み)」を知ることで、もっと心が楽になるかもしれません。
ステップ(2):「何もしない」を積極的に選ぶ
悪い波が来ているときは、無理に動こうとすると余計にエネルギーを消耗します。
そんなときは、「やるべきこと」ではなく「今日はやらなくていいこと」を決めてみましょう。
私がよく作っていた「やらなくていいことリスト」は、こんな感じです。
- 手の込んだ料理はしない(コンビニや総菜でOK)
- 掃除・洗濯はしない(数日くらい大丈夫)
- 長文のSNSのDMは返信しない
- YouTubeで、難しいニュースは見ない
「何もしない」は、サボりではありません。
回復のために必要な、積極的な「お休み」なのです。
ステップ(3):自分だけの「避難所リスト」に駆け込む
あらかじめ、「これに触れていると少し心が安らぐ」というモノやコトをリストアップしておくのがおすすめです。
いざというときに、「さて、どの避難所に駆け込もうか」とゲーム感覚で選べるようになります。
私の避難所リストの一部をご紹介しますね。
- 肌触りの良い毛布にくるまる
- 好きな香りのアロマを焚く
- 何も考えずに見られる動物の動画を見る
- 温かいミルクをゆっくり飲む
あなただけの「避難所リスト」を作っておくことが、つらい波を乗り切るためのお守りになりますよ。
要注意!「良い波」のときに心がけたいこと
実は、うつ病との付き合いで一番難しいのは「良い波」のときの過ごし方かもしれません。
調子が良いからといって、かつての自分と同じように動けるわけではないからです。
【失敗談】調子が良いときにやってはいけないこと
かつての私は、少し調子が良くなると、
- 溜まっていたタスクを一気に片付けようと頑張りすぎる
- 「今なら大丈夫かも」と、大きな決断をしてしまう
- 嬉しくなって、人と会う約束を入れてしまう
といったことを繰り返していました。
そして案の定、翌日か翌々日にはエネルギー切れを起こし、ひどい落ち込みに逆戻り…。
この経験から、「良い波は、未来のエネルギーの前借り」だと考えるようになりました。
調子が良いときこそ、慎重に過ごすことが大切です。
【体験談】次の波に備えてやっておきたいこと
良い波のときに意識したいのは、次の波への「備え」です。
- 体調を軽く記録する:「今日は散歩ができた」など、簡単なメモでOK。私はX(旧Twitter)に鍵アカウントで記録していました。
- 日用品や食料を準備する:動けるうちにスーパーなどで買い出しをしておくと、次の「悪い波」で引きこもるための準備ができて安心です。
- 本当にやりたかった「小さな楽しみ」を一つだけやる:私の場合は一人カラオケですが、エネルギーを使いすぎない範囲で心にご褒美をあげましょう。
焦らず、無理せず。良い波を上手に使うことが、回復への近道になります。
「良い波」のときに少しずつ備えることで、生活リズムの大きな崩れを防ぐことができます。とはいえ、波によって生活習慣が乱れてしまうことに、自分を責めてしまう方も多いかもしれません。
長い目で見た「うつ病の波」との付き合い方
うつ病の回復は、一直線の右肩上がりではありません。
ギザギザの線を何度も繰り返しながらも、長い目で見ると、そのギザギザの振れ幅が少しずつ小さくなっていく。
そんなイメージです。
目先の浮き沈みに一喜一憂してしまうのは、仕方のないことです。
ときには「前より悪くなった」と感じる日もあるでしょう。
でも、少しだけ視点を引いて、「3ヶ月前と比べたら、一進一退だけど少しマシかも」「半年前よりは、動ける日が増えたな」と、長期的な変化を見てあげてください。
目指すのは、「波が完全になくなること(完治)」よりも、「波が来ても、うまく付き合える自分になること(寛解)」。
そう考えると、少しだけ心が軽くなりませんか?
波に揺れるあなたへ
うつ病の「波」との付き合い方について、私の体験を基にお話ししてきました。
最後に、大切なポイントをもう一度お伝えしますね。
- 症状の波は、回復過程の自然な現象
- 「悪い波」のときは、抵抗せずに受け流し、安全な場所で休む
- 「良い波」のときは、頑張りすぎず、次への備えと小さな楽しみを
- 長い目で見ると、波の振れ幅が小さくなっていくことを信じる
目の前の波は、大きく荒々しく感じられるかもしれません。
でも、今日この瞬間も、あなたの心と体は回復しようと一生懸命たたかっています。
その波は、あなたが孤独なたたかいをしている証拠ではありません。
多くの人が通り、そして乗り越えてきた道なのです。
どうか、今日のあなたのがんばりを、誰よりもまず、あなた自身が認めてあげてください。
この記事が、あなたのつらい日々の、少しでも道しるべになれたら嬉しいです。







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