「人より音や光、感情に敏感で、毎日ヘトヘトになってしまう」――それは“心が弱い”からではなく、“HSPという気質”のせいかもしれません。
私の心が「麻痺」していた、22歳の頃の話
少しだけ、私の話をさせてください。
私が社会人になったのは22歳の頃。サービス残業や終電帰りが当たり前の時代でした。
「みんなやっているんだから」と自分に言い聞かせ、心と体を麻痺させながら、ただ目の前の仕事をこなす毎日。
忙しすぎて、自分を責める余裕すらありませんでした。
夜になっても寝たくないんです。
眠ってしまえば、またつらい明日が来てしまうから。
週末は一日中、泥のように眠って過ごすだけ。唯一の息抜きは、金曜の夜に同僚と深酒をすることでした。
当時の私は、HSPという言葉すら知りませんでした。
だから、日常のささいなことで心をすり減らしていくのを、すべて「自分の弱さ」のせいだと思い込んでいたのです。
スーパーのけたたましいBGMや子どもの泣き声で心臓の鼓動が早くなり、人の顔が靄がかって見えること。
職場で同僚がため息をついただけで、何日も眠れなくなること。
そんなサインを無視し続けた結果、私の心は限界を迎えました。
朝、体が動かなくなり、会社へ向かう途中の公園で、ただ時間だけが過ぎていくのを眺める日が増えていきました。
そして26歳の時、ついに産業医との面談を経て「うつ病」と診断されたのです。
診断書を手に「これで、ようやく休める」と安堵したのを、今でもはっきりと覚えています。
もし、あなたも同じような息苦しさを感じているなら、この記事はきっと、あなたの心を少しだけ軽くする「お守り」になるはずです。
HSP(繊細さん)とは? 4つの特徴(DOES)を私の言葉で解説します
休職中にたくさんの本を読む中で、私は初めて「HSP」という言葉に出会いました。
その特徴を知った時、「これは、まさに自分のことだ」と、長年の謎が解けたようにすっと心に入ってきたのです。
HSPは病気ではなく、生まれ持った「気質」。
だから治すのではなく、うまく付き合っていくものなのだと知りました。
HSPには、「DOES(ダズ)」と呼ばれる4つの特徴があります。
一つひとつ、私の体験談を交えながら、やさしく解説していきますね。
深く考えすぎて、頭の中がいつも忙しい (Depth of Processing)
要約:HSPは情報を深く処理するため、考えすぎて疲れやすい傾向があります。
HSPの人は、物事を深く、多角的に考える傾向があります。
一つの出来事から、たくさんのことを感じ取ったり、想像を膨らませたりします。
私の場合は…
友人から「ごめん、また今度ね!」とメールが来ただけで、「何か怒らせるようなことを言ってしまったかな?」「“また今度”は、もう誘わないでっていう意味かな?」と、頭の中でぐるぐる思考が始まり、一週間くらい悩んでしまうことがありました。
刺激に敏感で、人より早く“電池切れ”になる (Overstimulated)
要約:HSPは外部からの刺激に敏感で、人より早くエネルギーを消耗しやすい性質があります。
外部からの刺激(光、音、匂い、人の感情など)を人一倍強く受け取ってしまうため、疲れやすいのが特徴です。エネルギーの消耗が激しく、こまめな休息が必要になります。
私の場合は…
友人との旅行はとても楽しいのですが、一日中一緒に行動していると、夜には必ず一人の時間を作らないと心がパンクしそうになります。楽しいはずなのに、なぜかぐったり疲れてしまう自分に、罪悪感を抱くこともありました。
人の気持ちが流れ込んできて、自分の感情かわからなくなる (Emotional reactivity & Empathy)
要約:HSPは共感力が高く、他人の感情に強く影響されやすいという特徴があります。
共感力が非常に高く、相手の感情がまるで自分のことのように流れ込んできます。
人の喜びも悲しみも、自分のことのように感じてしまいます。
私の場合は…
ネットで悲しいニュースを見たり、心無い書き込みを見ると、当事者の方の気持ちを想像しすぎてしまい、何日も気持ちが沈んでしまうことがよくあります。相手の感情と自分の感情の境界線が、あいまいになってしまう感覚です。
小さな音や光、匂いにも、心がざわついてしまう (Sensitivity to Subtle stimuli)
要約:HSPは五感が鋭く、他の人が気づかないような、ささいな刺激も拾ってしまいます。
五感が鋭く、他の人が気づかないような、ささいな刺激にも敏感に反応します。
私の場合は…
寝室にある時計の「カチ、カチ…」という秒針の音が一度気になりだすと、もう眠れなくなってしまいます。冷蔵庫のモーター音や、遠くで鳴いている救急車のサイレンなど、普通なら気にも留めないような音が、私にとっては心をかき乱す騒音に聞こえることがあるのです。
アーロン博士が作成したセルフチェックリストがあります。
ご自身の特性を理解する、一つの参考にしてみてくださいね。
- 自分をとりまく環境の微妙な変化によく気づくほうだ
- 他人の気分に左右される
- 痛みにとても敏感である
- 忙しい日々が続くと、ベットや暗い部屋などプライバシーが得られ、刺激から逃れられる場所にひきこもりたくなる
- カフェインに敏感に反応する
- 明るい光や強い匂い、ざらざらした布地、サイレンの音などに圧倒されやすい
- 豊かな想像力を持ち、空想に耽りやすい
- 騒音に悩まされやすい
- 美術や音楽に深く心動かされる
- とても良心的である
- すぐにびっくりする
- 短時間にたくさんのことをしなければならない時、混乱してしまう
- 人が何かで不快な思いをしている時、どうすれば快適になるのかすぐに気づく
- 一度にたくさんのことが頼まれのがイヤだ
- ミスをしたり、物を忘れたりしないようにいつも気をつける
- 暴力的な映画やテレビ番組は見ないようにしている
- あまりにたくさんのことが自分のまわりで起こっていると、不快になり神経が高ぶる
- 空腹になると、集中できないとか気分が悪くなるといった強い反応が起こる
- 生活に変化があると混乱する
- デリケートな香りや味、音、音楽などを好む
- 動揺するような状況を避けることを、普段の生活で最優先している
- 仕事をする時、競争させられたり、観察されていると、緊張し、いつもの実力を発揮できなくなる
- 子どものころ、親や教師は自分のことを「敏感だ」とか「内気だ」と思っていた
出典:ささいなことにもすぐに「動揺」してしまうあなたへ。(著者:エレイン・N・アーロン)
「HSPだから」は「うつ病」のサインを見逃す危険な言葉かもしれない
「疲れやすいのも、落ち込みやすいのも、HSPの気質だから仕方ない」
もしHSPという言葉を知っていても、そう思い込んでしまうのは危険かもしれません。
なぜなら、その自己判断が、うつ病のサインを見逃すことにつながる可能性があるからです。
HSPの「刺激に疲れやすい」という特性と、うつ病の「何をしても楽しくない」「体が鉛のように重い」といった症状は、とてもよく似ています。
「気質」のせいにしているうちに、本当は治療が必要な「病気」のサインを見過ごしてしまう。
私も、もう少し早く専門家を頼っていれば、あんなに長く苦しむことはなかったかもしれません。
もしあなたが「ただの疲れ」とは違う、心のエネルギーが枯渇していくような感覚を覚えているなら、それはHSPの気質だけでなく、HSPとうつ病が重なり合っているサインなのかもしれません。
心が壊れる前に試してほしい。私が実践してきた5つの「心の守り方(処方箋)」
ここでは、うつ病も経験した私が、試行錯誤の末に見つけた「繊細な心を守るための具体的な方法」を5つ、処方箋としてご紹介します。
すぐに効果が出るものばかりではありません。
中には、私ができるようになるまで20年近くかかったものもあります。
だから、焦らないでくださいね。
「これならできそう」と思えるもの一つから、試してみてください。
処方箋1:情報を断つ「デジタル・デトックス」の時間を作る
スマホやPCから流れてくる情報は、知らず知らずのうちに私たちの心を消耗させます。
意識的に情報から離れる時間を作りましょう。
処方箋2:「刺激の総量」を意識して、予定を詰め込みすぎない
一日に受け取れる刺激の量には、人それぞれ上限があります。
自分のキャパシティを理解し、予定に「余白」を作ることが大切です。
処方箋3:「これは相手の感情」と心の中で境界線を引く練習
相手の不機嫌や不安を感じ取っても、それはあなたのせいではありません。
「これは私の感情ではない」と心の中で境界線を引く練習です。
処方箋4:自分だけの「安全基地(セーフプレイス)」を持つ
心が疲れたときに、いつでも逃げ込める場所や時間を用意しておきましょう。
それは立派な場所でなくていいんです。
処方箋5:「疲れた」と正直に言える人を一人だけ見つける
すべての人に理解してもらう必要はありません。
ただ一人でいいので、「疲れた」と正直に言える相手を見つけられると、心はぐっと楽になります。
繊細さは、あなただけの「お守り」になる
ここまで読んでくださったあなたは、きっとご自身の繊細な気質に、たくさん悩んできたのだと思います。
ですが、その繊細さは、決して弱点ではありません。
人の痛みに深く共感できる優しさ。道端に咲く花の美しさに、心から感動できる豊かさ。
それらはすべて、あなたの繊細さがもたらしてくれた、かけがえのない「才能」です。
もし私が、20代の頃の自分に声をかけるなら、こう言うでしょう。
「大丈夫。そこが世界の全てじゃない。あなたには、もっと輝ける場所がたくさんあるよ」と。
今はまだ、その気質に振り回されて「生きづらい」と感じるかもしれません。
でも、これから少しずつ付き合い方がわかってくれば、その繊細さは、あなたの人生をより豊かにしてくれる、特別なお守りになってくれるはずです。
まとめ:あなたは、あなたのままで、きっと大丈夫
最後に、この記事でお伝えした大切なことを振り返ります。
- HSPは病気ではなく、うまく付き合っていく「気質」です。
- 「HSPだから」と思い込むことで、うつ病のサインを見逃してしまう危険性があります。
- 心が壊れてしまう前に、焦らずできることから自分を守ってあげてください。
- あなたの繊細さは、弱点ではなく、人生を豊かにする「お守り」になります。
あなたは、あなたのままで、そのままで素晴らしい存在です。
どうか、自分自身をこれ以上、責めないでくださいね。
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